◆大企業の好決算の陰で
考えるべき景気、雇用と関連する社会保障問題
◇還元されない企業の高収益
06年度の企業決算が発表になり、一部上場企業は5年連続で最高益をあげたことが分かりました。本来なら収益が上がれば景気回復につながり、喜ばしいことなのですが現実は違います。それは企業が高収益をあげても労働者への賃金は抑えられ、内部留保に回される傾向が顕著になっているからです。メディアが景気はよくなったと騒ぐほど、景気回復の恩恵は家計に及ばず、景気のカギを握る個人消費が上向くかはわからない状況です。
円高が追い風にもなった上場企業の高収益は「企業の存続をかけて」との大義名分のもと、下請けへのコストダウン強要、大胆なリストラ、非正規社員を増やして人件費を抑制してきたことなどが要因で実現できたことです。近年、企業も国も人に対する投資への考えが希薄になってきています。そして大企業が高収益をあげている陰で、従業員の暮らしや中小・零細企業の経営が悪化していることを忘れてはならないのです。
企業が高収益をあげれば暮らしが楽になるはずなのに、過労で精神障害を起こして自殺した人が過去最多で、前年比6割増にもなったことが厚生労働省のまとめで明らかになりました。生き残りをかけた企業のリストラが却って長時間労働を日常化させ、過剰な仕事を強いる結果となってしまったのです。利益追求で過労自殺者が増える状況を放っておくことはできません。
「労働者を大切にしない経営者。それを後押しする厚生労働省。過労自殺の連鎖を早く断ち切らないと、社会に未来はない。命に代えてまでやる仕事など、この世にあるはずがないのである」と、神奈川新聞の社説でも指摘されています。
◇大企業優遇、中小企業冷遇
政府は銀行が潰れたら経済に与える影響が大きいと、不良債権処理のために公的資金を投入してきました。さらに金利ゼロ、法人税ゼロの優遇税制措置の中で銀行は高収益をあげてきたのです。これに対し、中小・零細企業が法人税、市・県民税を滞納すれば督促、差し押さえ、競売という厳しい道を辿っているのが実態です。
景気がよくなっているといわれながら、中小・零細企業の約7割が累積赤字を抱えています。民間調査会社の調べで、4月の倒産件数(負債総額1千万円以上)は前年同月比で2・8%も増えていることもわかりました。業績のいい一部上場企業だけを「最高の利益」と大きく持ち上げて「景気がよくなった」と報道する、これでは日本経済の正しい状況を判断することなどできません。
企業決算は平成11年4月以降の事業年度から連結決算中心となりました。連結決算とは、簡単にいうとグループ会社の企業集団を単一組織体とみなす決算方法です。たとえ国内で売上が落ち込んでも、海外のグループ企業が売上を伸ばしていれば好決算となるのです。この決算方法は、国内景気の動向を見誤らせる懸念もあります。連結決算のできない中小・零細企業の厳しい状況も同じように取りあげて、日本企業全体の姿を明らかにすべきなのです。
◇大切なのは消費の回復
大企業と中小・零細企業の格差は広がる一方です。その中で、大企業は社会保障費の負担軽減のために正規雇用を抑えて収益を増やしてきました。非正規社員が全体の約4割を占める中、本来なら社会保障費に回るべき負担減で得た収益がどれくらいあるのか、政府はこの額を算出すべきです。
景気がよくなっているという反面、社会保障はどのようになっているのでしょうか。高齢社会になった今、政府・自民党は百年安心の年金制度を謳いましたが、これを決めた段階から、既にこの制度は危ういものとなっているのです。益々進む負担増と給付減で、国民への不安だけが残ってしまうことになったのです。負担を軽減し年金不安をなくせば、給料や貯えをもっと消費にまわすことができ、生活にもゆとりがでてきます。おカネを使える環境が整えば、結果として景気がよくなっていくはずです。景気回復には税、年金を含め、消費を増やす仕組みを、もういちど作り直していく必要があると思うのです。
◇百年安心は社保庁解体から
年金不安をなくすには社会保険庁の問題を抜きにしては語れません。社保庁を巡っては年金の支給漏れが約22万件、該当者不明の保険料加入記録の存在が約5000万件、保険料の徴収対象外となる住所未登録者が約69万人いることが分かりました。掛け金を納めたにも関わらず年金記録無しが2万人。では、その掛け金は何処に消えてしまったのでしょう、信じられないことばかりです。さらにこれらの数は増え続けているのです。社会保険庁のデタラメを徹底的に解明し、完全に解体することが急務です。
国民に不利益を被らせておいて何の社会保障なのでしょう。政府・自民党が「百年安心」と、誤魔化し続ける衣替えだけの社保庁改革は改革に値しません。それどころか却って日本を駄目にしてしまいます。年金に対してはデタラメの数々を積み重ねることができないよう、国民自身も監督の目を光らせる安心の年金制度が必要なのです。