闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

国政リポートNo.472
2007年1月29日

 

「格差是正」の国会が開幕
 取り組みの熱意が伝わらない首相の施政方針演説

●格差の是正が最優先

 安倍政権にとって初めての予算編成となる166通常国会が開かれ、代表質問が行われました。首相が強調する「美しい国、日本」は、首相になってからの100日余りの言動からみて具体的な政策も進まず、何をしようとするのかが伝わってきません。予算編成にあたって道路特定財源の一般財源化も官僚、族議員の圧力で曖昧にされたままです。
 首相の施政方針演説では新成長戦略や、ASEAN(東南アジア諸国連合)などとの経済連携、一層の歳出削減、年金の一元化、教育改革の必要性、米同盟の一層の強化と外交・安全保障、憲法改正などへの強い意欲だけは示していますが、今国会で何を最優先課題に進めていくべきなのか、施政方針からは伺い知ることができません。
 首相の掲げる「美しい国、日本」が我が国の活力を呼び起こすための的を射たものになって欲しいと思うのです。その中でも、特に国民生活に密接に関係した格差是正、不公平社会の改革を急がなくてはなりません。しかし、格差是正について格差社会の厳しい現実を本当に理解しているのか、その取り組みについては疑問を持たざるをえないのです。今国会はそのための議論を深めていく国会であるべきなのに、演説中この問題に関して触れたのは、ごく僅かでした。

 

●格差を広げる成果主義

 今日の格差社会をもたらした原因に、労働環境の激変があります。企業は長引く景気低迷を受けて利益を確保するために終身雇用、年功序列が時代に沿わないと、成果主義による賃金制度を取り入れるなど、労働形態を大きく変えてきました。特に大企業はリストラで正社員を減らし、パートや契約による、いわゆる非正社員を増やして対応してきたのです。このことによって所得格差が生じ、今日の格差社会へとつながってきたのです。またリストラされた人、企業に残った人、そしてまた、大企業と中小零細企業との受注下請の優越的な地位関係が勝ち組・負け組となって所得格差に拍車をかける要因になっていったのです。
 小泉前首相は格差もやむなしと、これを容認するような姿勢をみせ、当時の竹中経済財政相も一緒になって日本経済を強くするには市場原理主義によるグローバル化が必要だと、弱者切り捨ての政策を執り続けてきました。それは、大企業が利益をあげ、景気が回復すれば高いところから低いところへと水が流れる如く、おのずと中小零細企業へも利益分配がなされるというものでした。ところが、銀行始め大企業が空前の利益をあげているにもかかわらず、格差は縮まるどころか却って固定化の兆しを見せ始めています。政府の執り続けた成果主義政策が多くの問題点を生じさせてしまったのです。このまま放っておけば、状況は益々悪化の方向へと進んで、格差は広がる一方になってしまいます。
 格差拡大が懸念される中、労働分野において成果主義を掲げる多国籍ルールを採用し、8時間労働の枠を取り払おうとする動きがでてきました。ホワイトカラーエグゼンプションの導入です。これは、長年築き上げた社会の習慣、企業倫理や順法精神を守っていくための8時間労働、残業制度などを根底から変えようとするものです。これも、「労働環境を米国型に移行せよ」との米国政府や日本経済界の強い要望によるもので、サラリーマンが自由に労働時間を調整できて、一見、良いように見えますが、さまざまな問題点を抱え、多くの勤労者の利益にかなう制度にはなっていないのです。個人より、組織で力を合わせる伝統的な日本の労働環境には馴染まない制度です。十分に議論を深める必要があるのです。

 

●雇用改善が格差を解消

 勝ち組・負け組、格差社会という姿からアンバランスな日本経済を見て取ることができます。日本の社会には、働いたら相応の利益を分配する、いわば商習慣における「利益の分かち合い」の文化、伝統がありました。株主、投資家に3分の1、勤労者に3分の1、企業の運営に3分の1というものです。昨今、この考えが大きく崩れてきてしまったように思えるのです。「自分だけ儲かればいい」という考えです。
 雇用においても契約、パート、派遣を含めた非正社員の割合が4割を占めるようになっています。この現状をしっかり受け止め、同一賃金・同一労働とまではいかなくても、そういう感覚を持って対処していかないと、収入の格差は広がる一方です。権利形態のあり方、特に年金や社会保障など、公平な制度の確立も必要になってきているのです。
 日本は公平なルールによって戦後の荒廃から今日の発展を生みだしました。公平であることはこれからも大切にしていかなければなりません。そして、経済のグローバル化を優先するがために、日本の文化、伝統を無視してまで極端な成果主義による雇用関係を導入するようになれば、日本経済を支える中小零細企業を中心に、労働環境の信頼性は崩れてしまいます。それぞれが役割分担を果たしながら、平等な労働環境を保っていく。これが格差を生まない要因になり、政治の役割だと感じています。