国政リポートNo.444
2006年1月16日
日本を潰す「小泉改革」の過ち
昨年は郵政民営化で明け暮れた国会となりましたが、今年はこの流れを受け、さまざまな改革が加速されていくことが予想されます。二十日召集の通常国会では医療制度改正案が審議される予定ですが、これも郵政民営化と同様、「閉鎖的な日本市場を開放せよ」との米国からの強い要望があるのです。既に九八年には、米国政府の意見表明として、日本の薬価が高いと医薬品に対して具体的な要望がだされています。また、耐震偽装が大きな社会問題となっていますが、建築確認業務が規制緩和によって民間に解放されるようになったのが、その原因との見方もあります。建築基準法の改正も、実は米国の圧力によるところが大きいのです。
八九年の日米通商摩擦で、米国は日本に対し悪名高い通商法のスーパー三〇一条を発動しました。激しい日本叩きは車やラジカセなど、日本製品がハンマーでたたき壊されるところの報道で、いまだ記憶に新しいところです。この時、標的にされたのがスーパーコンピュータ、人工衛星、そして木材などの建築資材だったのです。米国木材業者のビジネスチャンスを拡大するために、日本の高い住宅コストを引き下げて、ツーバイフォー用建築資材の日本市場への参入を迫りました。その結果、ローコスト建築と建築確認のスピードアップが今回の耐震偽装や手抜き工事につながり、社会問題化したのです。「官から民へ」、まさに行き過ぎた規制改革の失敗例なのです。
阪神淡路大震災で、本来なら強化すべき建築基準法の改正が、「建築基準は必要最小限のものであるべきだ」とする米国流の市場原理・経済性重視の考え方に傾いて、規制強化とはまったく反対の安全性軽視の規制緩和となってしまったのです。
建築基準法の改正については、「我が国は度重なる災害による教訓を得て、さまざまな国土の状況に即して建築物に必要な構造上、防災上の安全水準を確保するための基準を定めているのであり、この水準を下げる考えはない」と、日本政府は一応反論したといいます。しかし、経済制裁をチラつかせる米国の脅しに、政府は屈してしまったのです。
耐震偽装の問題で、調査が進めば行き過ぎた規制改革の弊害が他にもでてくるかも知れません。日本の古き良き文化や伝統を壊してまで進める改革は、必ずしも国民の利益につながるものではないと思うのです。
小泉総理が改革の本丸と位置づける「郵政民営化」も、そして米国からの投資を容易にし の障害を取り除く「会社法」も、すべてが日本市場を開放するためのものであり、開放することによって、却って多くの懸念材料を抱えることになってしまうのです。
米国が昨年の「郵政改革」の次に狙いをつけているのが「医療制度改革」です。混合診療の解禁、株式会社の病院経営参入を柱とする米国圧力の医療改革が日本の国情に合ったものなのか、一歩間違えれば医療制度改革が建築基準法改正で生じた耐震偽装と同じ状況にならないとも限らないのです。
米商務省からのさまざまな要求を突きつけられる「年次改革要望書」は、毎年十月に日本政府に提示されています。米国大使館のホームページでも堂々と公開され、郵政民営化を切っ掛けに、その存在はいまや万人の知るところとなりました。
そもそも「年次改革要望書」は対日経済戦略として米国が八五年のプラザ合意の年、債権国から債務国に転落したことで毎年つくられるようになりました。日本が国力を増し、対米貿易を増やしていった当時、九三年の宮沢、クリントンとの首脳会談で産業分野別の是正を要求され、米国に譲歩する形で合意し、それ以来、具体的な要求項目を列挙した「年次改革要望書」が提示されるようになったのです。
毎年十月に提示されるこの要望書は、昨年に限って十二月に提示されました。遅れた理由は定かではありませんが、十一月のブッシュ大統領の来日による、日米首脳会談での影響を考えたからだと思うのです。首脳会談前に高圧的な要望内容を明らかにすることは、米国にとって決して利益にならないと考えたのでしょう。それなら日本も国益にかなうもの、かなわないものとの分別をはっきり示していかなければなりません。
「改革」を旗印に小泉総理は官から民へと、行政のスリム化を図っています。この流れは間違ったものではありませんが、拙速で行き過ぎた「改革」は却って日本を危うくします。肥大化した行政の力を「改革」によって弱め、代わりに司法の力を強めることを主張する声が経済界の一部にあります。市場原理主義の導入で自由に競争できる社会をつくろうというのです。そして何か問題が生じれば、裁判で決着をみれば良しとする考えです。この考えが最近、少しずつ支配的になってきているように思うのです。これは、まさに米国流のグローバルスタンダードです。日本の良き文化、伝統を見直して、その上で日本の国情に即した独自の改革を進めるべきなのです。
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