闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

09 第三の道


 21世紀の福祉国家

 横浜、渋谷、原宿などには若者たちの熱気が溢れています。「これでどうして日本は高齢社会なの」と、不思議なくらいです。しかし、確実に日本は世界に例を見ない速さで高齢社会を迎えているのです。将来に向かって、誰でも安心して暮らせる豊かな社会づくりが急がれます。
 年金、医療、介護を柱とした社会保障制度は、国民の暮らしを支える安心・安全ネットです。21世紀は年金の一元化を図り、あまねく公平に、老後の将来不安をなくすことで日本の社会を安定化させていくことが大切だと思います。
 働く意欲のある人は、生涯を通じて積極的に社会参加ができる環境をつくりだしておくことも必要です。働けることは、健康維持にもつながります。豊富な経験を活かして企業へ、またNPO(非営利民間組織)へ参加する。そして、前にも述べたように、将来、「部分年金」「部分就労」という形をとっていく。年金で生活の基盤をつくり、部分就労で得た賃金には税金をかけない。そのことで働く意欲がわき、結果予防医療となり、国の老人医療費が減少していきます。
 現在、国民医療費は約30兆円、このままでは2025年には49兆円を突破し、65歳以上の高齢者にかかる医療費の割合は6割以上を占めると言われています。これは大変な状態です。しかし、健康で働ける環境さえ整えば、医療費を大きく減らすことも不可能ではないはずです。
 今の日本の医療は、病中病後の処置のためにあります。これが医療費を必要以上に膨れ上がらせている原因となっています。これからは健康であるための予防医学に力を注いでいくことが必要だと思います。
 元気で働く環境づくりも、病気にならないための予防措置と言えるでしょう。生涯働くことで経済効果も期待できる。雇用の創出も生まれてきます。この考え方を21世紀の日本再建計画の柱にするべきだと思います。
 また、日本は「寝たきり老人」が世界一です。しかも「寝かせきり老人」をつくりだしていることも事実でなのです。医療の薬漬け、検査漬けを改め、若者から高齢者まで元気に働ける「マンパワー」の体系づくりを行えば、世代を超越した総合的な労働環境を構築していくことが可能となります。
 日本が高齢社会の中で、いまなぜ、サラリーマンの医療費が3割負担なのでしょう。予防医学をしっかりと根付かせて、元気に社会参加をしてもらえれば、医療費の削減につながります。今まで、何十年も積み上げてきた技術や能力を社会に還元してもらえば、製造業の空洞化防止にも、失業対策にも貢献できます。そして、優れた技術を後輩に受け継いでいくことができれば、こんなに素晴らしいことはありません。
 いつでも、どこでも安心してかかれる医療制度が必要だと思います。僕は、医療が先ではなく、健康づくりが先に来なければならないと思うのです。その上で、何かの時に、いつでもどこでも安心できる医療を提供する。日本の将来はやはり、こうした自立可能な日本型の福祉国家をめざしていかなければならないのです。
 併せて、少子化対策にも力を注いでいかなくてはなりません。僕は、幼稚園と保育園が文部科学省と厚生労働省との間で板挟みになる「たて割り行政」では、子どもを育てやすい環境づくりはできないと思います。幼保の一元化、そして国と社会が一体となった子育て支援策を制度面、財政面からも強化して、次代を担う子どもたちを安心して産み育てられる制度改革を行っていくことが必要なのです。

 

 特殊法人の解体

 特殊法人改革は、僕が7年前の1997年、新進党時代から取り組んだ大きなテーマです。僕の改革案は、役割の終えたものはすべて廃止する。そして民間でできるものは民営化する。地方自治体でできるものは自治体で行う。その上で、どうしても必要なものはゼロからスタートさせるというものです。
 特殊法人には、この厳しい時に年間5兆円から6兆円もの国費が投入され、約82兆円の国家予算に対し、年間総事業費は400兆円にもなると言われています。これは国家予算の約4倍以上を占めることになるのです。そしてその財源は、国民から集めた郵便貯金や厚生年金、つまり財投資金から流れ込んでいるのです。
 最近ではマスコミでも取り上げられているため、国民も特殊法人の無駄な構図がわかってきましたが、僕がこの問題に着手した当時は、特殊法人の存在を知る人は余りいませんでした。
 会計方式も使い切りの単年度方式、収支決算もなく、その上情報公開すらされず、いままで、こんなでたらめを許してきた政府の責任は重大だと思います。
 官僚制度自体に大きな問題があります。特殊法人を廃止する前に、先ず徹底した情報公開をさせる。そして第三者機関を入れて一般会計制度に改める。これらの義務づけをさせていかなくては、益々国の借金体質は膨れ上がってしまいます。国は600兆円を超える借金を抱えていると言いながら、こんなところで無駄に金が使われているのです。
 特殊法人は、全体の42%が天下り役員で占められています。これが改革で減るどころか、却ってその数を増やそうとしています。認可法人、ファミリー企業を含めると2万6000法人以上となります。政府はそこへの官僚の天下りを容認しているのが実態です。
 そして、官僚の天下りの受け皿となっている特殊法人は、赤字にもかかわらず、民間では考えられない給与、退職金を受け取っています。賞与に至っては首相よりも多い額を受け取っている。平均賃金2200万円、渡りを続けて退職金が1億円、こんな理不尽な役人天国を許しておいてはならない。特殊法人改革は待ったなしなのです。
 この問題は国だけでなく、地方にも言えるのです。第三セクターという名のもとに無駄な予算をつぎ込んでいます。国、地方を挙げて、これらを全部見直していかなければならないのです。
 僕は、特殊法人はすべて廃止して、ゼロからのスタートを主張してきました。しかし、政府は民営化する前に独立行政法人に移行させようとしています。順序が逆なのです。これでは、独立行政法人が第二の特殊法人になりかねないと、僕は懸念を抱いています。
 役人だけが楽をして、国民が日々疲弊していくのでは日本の未来はなくなってしまいます。役人を半分に減らす。この目標に向かっていかないといつまで経っても自らが身を切る行政改革など、できはしないと思います。そして前に述べたように、官僚の天下り先となり、その役目を終えた特殊法人、公益法人などは全て廃止して、どうしても必要ならば、もう一度ゼロからつくり直せばいい。国を変えていくためには、これを政治主導で進めていかなければならないのです。

 

 無駄な公共事業

 政府は公共事業で景気を回復させようとしています。これは従来の手法で、10年も20年も前から同じ方法が繰り返されてきています。景気回復に並々ならぬ取り組みを見せてはいるものの、公共事業は相変わらずのバラマキとなっているのです。
 かつて、森首相のとき、政府は整備新幹線構想を復活させました。北陸、九州新幹線には完成するまでに10年で8000億円を要すると言われています。人も通らないところにインフラ整備と称して政治権力で利益誘導の予算配分ばかりをやっているのです。なぜ、採算性のないところに公共事業が必要なのでしょうか。国と地方の債務を増やすばかりです。このような公共事業のあり方は絶対に間違っていると思います。この間違いをやめない限り、日本の借金は膨らみ続けていきます。通信インフラの整備など大胆な予算配分の変更を考えるべきだと思うのです。
 東京や横浜を始め、日本の首都圏は日本経済の6割以上を担っています。そして人口の半分以上が首都圏に集中しているのです。首都圏の交通渋滞を解消するだけでも、環境対策費、無駄なエネルギー消費などを含め、年間約20兆円のロスが解消できます。この点に本気で目を向けて公共事業のあり方を根本から変えていかなければならないと思うのです。いつまでも利益誘導型のバラマキ公共事業をやっている時代ではないはずです。
 15年度、政府予算案に対し、僕は衆院本会議で反対討論を行いました。
 政府の失政によって不況が拡大し、そのために国民は生活を破壊されてしまっています。GDP(国内総生産)を減らし、株価を下げ、2万件の倒産、20万の夜逃げ、350万人の失業者、そして医療費アップ、雇用保険の給付削減、介護保険の介護報酬引き下げ、配偶者特別控除の廃止、発泡酒とたばこの税率アップなど、政府の失政のツケを国民に負わせるようなことは、絶対にあってはならないことです。
 今回、民主党は、始めて独自の予算案を編成しました。中・長期的な改革ビジョンに基づいて、地方への個別補助金を全廃し、おおくくりの一括補助金に改めるほか、百万人の雇用増に結びつく新しい需要策を講じ、ローン利子控除の創設など、斬新な税制改革案を盛り込んだのです。そして、最後に、「我々はいつでも政権を担う覚悟があります」と、そのことを国民に強く訴えて、僕は反対討論を終えたのでした。
 僕は、国の予算を官僚と官僚の手の平にのった自民党でつくることをやめていけば、近い将来、日本のかたちは間違いなく変わっていくと思います。過ちの政策立案にも、また、時代の流れ、変化にも官僚は見直すことをしません。一度決めたらそれが正義だと言わんばかりに、時代遅れで無駄と分かっている公共事業でも、20年前30年前の計画を強引に進めていく。そこには政・官・業の歪んだ癒着の構造が浮かび上がってきます。無理を承知で事業を進めようとする。そこには裁量行政、利権構造を手放したくないという思惑が働いているからなのです。 
 まず、日本の元気を取り戻すために裁量行政、利益誘導、天下り天国となっている官僚主導国家から、政治主導国家へと日本の姿を変えていかなければなりません。一刻も早く国民主体の政治へと大転換を図り、中央集権から地方分権へと行政の姿を変え、権限、財源を含めて地方と国の関係を問い直す。市町村を合併し、コミュニティーを育て、地方の活力を引き出すための施策をどうするかも問われてきます。
 官僚に乗っている中央集権か、真の意味での地方分権か、地方への個別補助金を廃止して一括交付金として配分する。これが、地方が自立して可能となる、日本型・第三の道につながる最良の切り札だと思っています。

2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載

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