闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

09 第三の道


 アメリカの逆襲がはじまった

 日本経済は、バブルが崩壊してから10年以上が経っているのに、未だ回復軌道に乗ることができずにいます。大手企業は大リストラと、生産拠点を人件費の安い海外に移し、経費の大幅削減などで何とか利益を確保していますが、しかしその分、国内に留まらざるを得ない弱い立場の中小企業、とりわけ零細・中小企業は一部のいわゆる勝ち組を除いて、まともに大手企業の余波を受けて立ちいかなくなっています。中小企業の景況感が上向かなければ、本当に景気が回復したとは言えません。企業の業績悪化で国の税収が減り、国の借金は600兆円を超えて、国民一人当たりにすると500万円以上になっていることは前にも述べました。
 こんなに借金を抱えている日本ですが、海外に175兆円の資産(対外純資産残高)を持っていると財務省が発表しました。日本が世界一で、第2位がスイス、3位がドイツとなっています。そして、これが12年間も続いているのです。昨年は約4000億ドルの輸出に対して3000億ドルの輸入となっていて、貿易収支の黒字を計上しています。財務省の発表で日本の輸出が何とか頑張っていることがわかります。
 アメリカは反対に海外に2兆3000億ドル、日本円で約280兆円の負債を抱えています。借金だらけのアメリカが楽をして、海外に資産を持つ日本が何で10年以上も苦しまなくてはならないのでしょうか。実は、約8割が投資や融資で海外に出ていって、国内には2割しか使われないでいるのです。
 日本はドル建てで資産を持っています。このために、円高になればなるほど、為替リスクが生じてしまい、昨年はせっかくモノづくりで貯め込んだ利益がまたたく間に消えていってしまう、こんな状況にもなっています。海外資産大国であれば、自国の通貨に対する戦略をしっかり持っていなければならないと思います。
 冷戦後、経済大国となった日本は、世界中の買い占めを始めました。ハワイのプール付きの豪華な一戸建てが銀座の一坪で買える、まだ記憶に新しいことだと思います。このような屈辱に、アメリカが黙っているわけがありません。金融のグローバリゼーションを持ちだして、日本に総攻撃をかけてきたのです。それが銀行のBIS規制であり、時価会計の導入であり、そして日本型資本主義の基本ともいうべき終身雇用制、株式の持ち合いのぶち壊し作戦だったのです。
 そのそも不良債権処理と銀行の再編はアメリカの要求によって始められたものです。加えて低金利で行き場のなくなった資金をアメリカ市場へと向かわせて、その資金で日本の資産を買いたたく。こんなことが水面下で行なわれていったのです。僕は「これはアメリカが仕組んだ経済戦争」だと思っています。
 ゼロ金利政策を続け、日本の金融システムの崩壊で、金利の高いアメリカへと資金が流出し、日本経済は混迷を深めて行ってしまったのです。

 

 輸出で頑張る日本

 国内の消費が厳しい状況では、輸出に依存せざるを得ません。そのためには、僕は、付加価値を付けたモノづくりの基本に返れと、何度も主張を続けているのです。
 モノづくりの原点を見直して、日本経済を何とか輸出で支えていかなければならないときに、輸出拡大策とは正反対の輸入の促進を、経済産業省の関連機関であるJETRO(日本貿易振興会)が、パンフレットに謳っていました。経済産業委員会でこの点を指摘したとき、この事実を平沼担当大臣も知らず、慌てて訂正させる一幕もありましたが、これを見ても役人と政治家との間では、国家戦略の行き違いが伺えるのです。
 日本の大企業は生産拠点を東南アジアや中国に移し、産業の空洞化現象に拍車が掛かっています。政府は、その原因がどこにあるのか、中国に勝つためにはどうしたらいいのか、具体的な戦略をたてるべきです。それは知的財産権であり、許認可、規制の撤廃であり、法人税の見直しなど、省庁間の枠を越えて、包括的に考えていくことだと思います。

 

 日本型・第三の道を求めて

 米・ソの対立が国際的緊張状態を生み出していた「冷戦」が終結し、世界の流れは大きく変わりました。特に、東欧では共産主義政党が民主社会政党へと変ぼうを遂げ、東西両陣営の間で世界の大きな枠組みがつくられて、社会的公正を求め、経済効率を互いに高める動きが活発になってきました。
 EU統合を進める中で、フランスではニュー・レイバー(新しい労働運動)を強調し、イギリスのブレア首相は第三の道、ドイツのシュレーダー首相は新しい中道派、イタリアのダレーマ首相とブロディー首相につながるセンターレフト(中道左派連合)、オリーブの木路線など、サッチャー主義に代表される「新保守主義」とも、大きな政府を推進する、これまでの社会民主主義とも違う、いわゆる「第三の道」を模索していることは、共通していると言えます。
 日本も、世界の大きな潮流に乗り遅れるわけにはいきません。当然新たな道、日本型・第三の道を模索していかなければならないのです。特に、55体制以来、少しも変わらぬ政治体制は、いまや閉塞感を通り越して八方ふさがりの状態です。戦後、アメリカに追いつけ追い越せでやってきた日本型資本主義も、アメリカを追い越したと思った途端、モグラ叩きのようにアメリカからボコボコ叩かれる。マネーゲームに明け暮れた日本経済も大転換を余儀なくされています。
 明治政府がつくりあげた官僚支配政治にも陰りが見え、国民の我慢は極限点に達しています。東西冷戦後のヨーロッパのように、どれもこれも変ぼうを遂げていかなくてはならないのです。
 体制の変化に合わせて、これから人間主義、合理主義、理想主義の三つの思想が日本の21世紀には求められてくると思うのです。この三つに支えられた民主社会主義の思想に基づいた政策をやらなければ、世界から見放されてしまう、それを僕は心配しています。
 民主社会主義という理想を、若い人達に教え、共に学んでいくことが必要なのです。今後、民主社会主義と言う基本理念は世界の主流になっていくだろうと思っていますし、その柱には、お年寄りを「保護する国家」から、「自立を促す国家」へと、時代にあわせた21世紀型の福祉国家をつくり上げていかなければならないと感じています。

2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載

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