雇用、労使協議に配慮の「産業再生機構法」
イラク戦争が始まって、僕は、日本経済に及ぼす影響を心配しました。ガソリンが値上がりを始めるのではないか、輸出にブレーキが掛かる懸念もある。有事の経済対策をしっかりと打ちだし、産業活動に支障をきたさないようにしなければならないと感じたのです。幸いにして、いまのところ直接的に大きな影響はでていないようですが、イラク報復へのテロ行為が世界各地で起りそうな気配を見せています。
日本の企業、とりわけ中小・零細企業にとってはイラク戦争の行方は大変気掛かりな問題でした。それは、景気の落ち込みは体力の弱い中小企業をもろに直撃するからです。だから、厳しい状況に一番先に置かれる中小・零細企業が再建しやすい環境を調えておかなくてはならないと思ったのです。
昨年10月、国の総合デフレ対策の中で、産業再生機構の設立が決まりました。経営不振に陥った企業への支援を通じて銀行の不良債権問題と、産業の再生を一体的に解決することを目指すものとして期待されています。
再生機構法案の審議のときに、「中小企業でも本当に企業の技術力を評価してくれるのか」、「数字だけを判断材料にして再生支援が受けられないのではないか」、「営業譲渡した場合、雇用が引継がれないのではないか」などの疑問や不安点が、僕のもとに多数寄せられてきました。
厳しい経済状況下、再生機構が真に企業支援モデルとなっていくために「雇用の安定に配慮する」「労使協議の状況に配慮する」「企業規模を理由に不利益な取扱いをしてはならない」などを加え、附帯決議として支援の決定を行うに当たっては「公正中立的な観点からの判断」「事業者のモラルハザードを招かないように努め、機構の損失拡大の防止に十分配慮する」「業務運営の透明性の確保、企業秘密に配慮しながら情報の公開に努める」など、国の法案に注文をつけて修正させたのでした。
僕は、この修正案に対する答弁を参院経産委員会で求められました。委員から「産業再生が言われる中で、人の位置づけが欠けている。労使間で雇用を大切にしてきたことは、リストラをしにくくする側面もあった。これを守ってきたことが、意識の向上、社会の安定につながった。今回の修正案は、どのような事を考えてこの法案に盛り込んだのか」との質問をうけました。僕は「雇用の安定の配慮、労使協議の状況への配慮、企業規模を理由に不利益をこうむらないなど、三つにしぼって修正させていただいた。あらゆる業界、労組等の意向を十分加味した。企業を生かすも殺すも人次第。この法の趣旨にのっとって施行していくことが重要だ」と答弁し、修正案への理解を求めました。
いつまで続く大手行への資金投入
戦後のイラク復興、北朝鮮の核と拉致問題など外交問題が大変です。首相は外国ばかりに目をむけるのではなく、小まめに自ら商店街とか中小企業などを歩きながら実体経済、国民の暮らし向きを把握するべきです。
日本は豊かと言われても厳しい状態が続いています。大手銀行に公的資金を投入し、大手企業にも、借金を棒引きするいわゆる債権放棄を行なっています。それなのに、立ち直りに失敗したりそな銀行へは、公的資金の投入が行われ、今回も、約2兆円もの公的資金の投入を行いました。どうしてこれだけの資金が使われなければならないのか、倒産逃れのための公的資金の投入なのか、政府の監督責任はないのか、あるいは資産査定の厳格化がもたらしたものなのか、いずれにしても、これらは国の金融政策の誤りであることは確かです。
第二、第三の、りそな問題は本当に大丈夫なのか、はっきりした情報公開を、これからは徹底させていかなければならないと思っています。
中小・零細企業に影響が及ぶからと、大手行を助けるためと公的資金が投入されても、中小・零細企業の厳しさは少しも変わっていません。日銀に潤沢に用意された資金も、大企業の生き残りに使われて末端まで流れていないのです。
公的資金の投入には、中小企業向け融資を増加させる計画が義務づけられています。それが、この2年間で10兆円以上も減少してしまっているのです。国からは貸し出しを増やすようにとの、業務改善命令が出されましたが、銀行はなかなかこれを守れない。
一定期間眠っている現金化できない売掛債権と手形が、中小企業には合わせて85兆円もあるのです。やる気のある中小・零細企業を育てるためにも、担保や保証をなくし一定の与信のもとで融資できる特別信用保証制度を拡充すれば、企業にも安心感がでるはずです。2兆円というカネを一銀行に出すのであれば、中小・零細企業に流した方が、もっと日本経済は元気がでるのではないかと思います。
銀行、生保とも意に反する国の政策
生保も株価下落で含み資産が減少し経営が厳しくなっています。生保が危なくなれば株を持ちあう銀行も危うくなる、生保を破たんさせるわけにはいかない、そこで生保契約者への保険料の引き下げを可能とする保険業法改正案が衆院で可決しました。しかしこの法案、保険会社が
引き下げを申請すれば却って解約が殺到し、短期間で生保は破たんに追い込まれる、そんな懸念が生じてきます。
「抜本的な立て直しにはつながらない」との見方が賛成多数の与党議員からも出ました。もちろん、僕たちは大反対しました。こんなおかしな法案をごり押しする議員が自民党にはいるのです。
前にも述べたように、2兆円を一銀行に投入するなら中小企業に回した方が効果的だと思うと、僕たちは主張を繰り返しました。この動きに、日銀は中堅・中小企業の資金繰りを支援するため、中小企業の売掛金担保債権の買い取りを明らかにしましたが、当面、残高1兆円をメドとしました。僕は1兆円では少な過ぎると思っています。売掛金であれば3、4兆円を考えてもいいはずです。
中小企業が持つ売掛債権と手形は合わせて約85兆円もあるのです。僕は、経産委員会で新たな資金調達の円滑化として「売掛債権の流動化」を主張してきました。この制度がようやく日の目を見ることとなりましたが、今まで実行に移されてこなかったのは、中小企業対策がいつも後回しにされてしまっているからなのです。
僕の主張通りに、早くから日銀が売掛債権担保証券の購入に乗り出せば、中小・零細企業に安心感が出て、こんなに苦しまなくても済んだはずです。
「りそな」への資金投入、「生保」の利率引き下げ、どれも納得できないと、いまでも思っています。国民への賛否を問うアンケートでも圧倒的に反対が多かった。それでも法案を通す。こんなでたらめな国の政策が、日本経済をおかしくしているのです。
中小企業対策を、より充実
いまは、完全なデフレ経済に入っています。国はデフレを認識していながら有効な手段をとっていません。抜本的な減税と消費の拡大を図っていかない限り、デフレからの脱却はないと思います。可処分所得が下がる、年金給付が下がる、だから、消費にカネが回らない。結果としてデフレを助長させているのです。
前にも述べましたが、資源の乏しい我が国は、原料を安く仕入れて加工し、付加価値を付けて製品化する。半分は国内に、そして半分を輸出することで日本の経済、産業は成り立ってきました。この原則をもう一度考え直すべきです。
大切なことは、地域産業が何を望んでいるかです。僕は、中小・零細企業への融資制度として、資金の借り換え制度を提案し、セーフティーネットの充実を図りました。日常の要望や陳情に基づいて資金面で支援できる無担保、無保証制度を、国家戦略の中に位置づけさせました。1年で3万2000人の自殺者がでています。そのうち、経済・生活苦によるものが7900人です。国家として大変な損失です。この責任を重く受け止めていくことを約束させました。
後手に回る中小・零細企業対策に対し、後を断たない企業倒産は、失業、自殺などの社会問題を引き起こしています。この中で、産業再生機構法を修正させて、成立をみました。また、下請代金支払遅延防止法改正案も通りました。これは立場の弱い中小・零細企業にとっては、前々から懸案となっていたもので、企業間どうしの商売上の約束事を確約させるものです。
発注者側が優越的地位を乱用し、技術や能力を評価することなく、不当な値引きや、支払の遅滞が日常的に横行していました。これを、不利益を被ることのないようにしたもので、親企業も下請も同等に生きる時代であることを認識させていかなければとの考えに立って取り組んできた法案です。
景気と経済、そして仕事と資金は車の両輪、表裏一体の関係です。相変わらずの目詰まり状態を続ける金融環境が、立ち直りをかけて頑張る中小・零細企業の足を引っ張ることがないよう、円滑な資金供給が可能となる政策を、僕は緊急課題として主張してきました。
支払いが滞るようなことが起きたら命取りです。セーフティーネット資金を用意し、支障のきたさないように資金供給の円滑化も図ってきました。
仕事量の減少で資金需要が減ってきたときでも、運転資金は必要です。今までも融資の条件変更はありました。しかし追加の借入れは非常に困難です。これに対し、僕は、「銀行から借入れた資金は利息だけ払って、元本は待ってもらってもいい」と助言していたくらいです。
これからは、例えば3年であった借入れ期間を5年に、5年であったものを7年にと、借り入れ期間を途中で延長できる借り換え制度も成立をさせました。これで、融資を受けたのと同等の効果が期待できるようになったのです。
まだ、中小・零細企業の資金繰り対策としては十分ではありませんが、弾力性を持たせることで運転資金に余裕ができます。個人保証、第三者保証のあり方も再検討させて、土地担保と併せて今の中小・零細企業の実情に見合った無担保融資制度の導入も可能にさせました。この結果、銀行、公的金融機関から「融資申込みの案内が届くようになった」との声が聞かれるようになりました。
2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載
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