身勝手な銀行貸付
僕の知り合いに、ある日、取引銀行の融資係から電話があり、3000万円までいつでも自由に借入れができる融資枠を「解消する」と、何の前触れもなく突然告げられた個人経営者がいます。たまたま、借入れが残っていなかったので、融資枠抹消の手続きだけで済みましたが、そもそもこの融資契約は、借入れを申し込んでもいないのに、銀行から一方的に依頼されたものでした。「借入れが残っていたらどうするのか」と念のために聞いたところ、融資係りは「困ったものですね」と、他人事のように言い放ち、借入れ残金については即刻、返済を要求するそうです。貸し剥がしです。
これらの融資の始まりは、バブル期に、呼びもしないのに毎日のように銀行員が会社にやってきて、そして月末になると必ずと言っていいほど「借入れを増やしてください」と頼んでくる。これが、ことの発端だったのです。
「いま、借入れる必要はない」と断わっても、「それなら融資枠だけでもお願いします」と言われ、1000万、また1000万と融資枠を小刻みに増やしていったのです。その個人経営者も銀行が頭を下げて「借りてください」と言われれば、なんだか自分が信用されて、偉くなったような気がして確かに悪い気はしなかったと言います。なかには、ついその気になって分不相応の借入れを起こしてしまい、後で大変な目に合った経営者仲間も結構いると、当時を振り返っています。
バブル最盛期には、1億の土地がわずか1ヶ月で2000万円も値上がりしたことがありました。昭和59年、東京の千代田区六番町に建設中だった90平米のマンション一戸は、当初の発売価格9000万円の物件でしたが、2年で3億6000万円にも跳ね上がったと言います。こんなバカな時代だったのです。
銀行は、いつ証券会社になったのか、あるいは不動産屋になったのかと思うくらい、株や土地の情報をよく持ってきたと言います。借入れを起こさせて、その資金を「もうかるから」と、株の購入や土地の買収に向かわせるように仕向けていったのです。
結局、この話に飛びついて、次々にビルを買収していった揚げ句、バブルが弾けて本業に穴を空けてしまい、三代続いた老舗の酒問屋を潰してしまった話も聞きました。このような、類似する話は後をたちません。
僕は、なり振り構わずに狂乱社会をつくりだしたのは銀行であり、その責任は当事者である銀行は元より、監督官庁である当時の大蔵省に、そもそもの原因があると思っています。
大手企業の問題点
景気が持ち直してきていると言いますが、僕が耳にする中小企業経営者の声は、決してそのように楽観できるものではありません。特に、個人・零細企業は死ぬ思いで経営努力を続けています。その中で最も苦労しているのは資金繰りの問題です。
仕事が定期的に、そして順調に流れていれば、資金も流れてきますから何の心配もありません。ところが、昨今のように仕事量が減った上に不定期だと、当面の運転資金にも詰ってしまいます。
ある大手企業が、数年前から手形支払をしなくなったことを聞きました。約束手形を出さなくなった理由に、経費の削減があると言います。約束手形には印紙を貼らなければなりません。大手企業は支払い件数が多いので、この印紙手数料がバカにならないと言うのです。これも大手企業が生き残りをかけるには仕方ないことかも知れません。
反面、支払を受ける側の下請業者は、しわ寄せをもろに受けて大変です。特に、中小・零細企業にとっては深刻です。
ある日、僕の懇意にしているオーナー社長が、厳しい大手企業の支払の実態を話してくれました。取引先の大手会社が手形の支払をしなくなったと言うのです。それは、「本来、手形が支払われなければならない日に、『支払は約束手形の決済日である3ヶ月後に現金で振込みますよ』と言う、一枚の『支払通知書』を郵送してくるようになった」と言うのです。
「約束手形があれば、それを割引いて(銀行等で一定の利率を差し引かれて現金化してもらう仕組み)、すぐに現金化できるがそれができない。
言葉は悪いが、要するに我々にとっては手形を差し押さえられ、なおかつ支払期限を一方的に延ばされたようなものだ。その代わりに銀行が金を貸さなくなって大変でしょうから、当社系列のファイナンス会社で面倒をみてあげましょう。『支払通知書』で金を貸しますよと言う仕組みをつくった。シャクにさわるから、いまは何とか別の方法で金を工面しているけど、本当に困れば企業系列のファイナンス会社に頼らざるを得ない。大手会社も利益をあげるのに必死な事は分からないでもないが、暗に値引きを迫られる、支払は実質延ばされる。銀行が我々零細企業に金を貸さない弱みにつけ込んで、あらゆる手段で自分たちの利益を確保しようとする。リストラは容赦ない、仕入れ競争を激化させる。これでは大手企業だけが利益を上げて、下請零細企業が先細りしてくるのは当たり前。弱者の足元を見透かしたずるいやり方だ。どんなにいい仕事をしても、資金が回らなければ駄目。金を工面できるものだけが生残っていける世界なんて厳しすぎる」と。
僕は、このオーナー社長の嘆きが、ほとんどの中小・零細企業の声だと思っています。
「外形課税」中小企業への悪影響
平成15年度税制改正大綱で、平成16年度から資本金1兆円超の法人を対象とした、外形標準課税の導入が決まりました。僕は、総務委員会で質問にたち、片山大臣に「外形標準課税の導入は間違っている」と進言したのです。いくら地方の財源が厳しいからと、企業活動をなえさせる税制度の導入は、いまは論外だと思ったからです。それよりも、いま大切なことは、これらの企業を元気づけることで、中・長期的に考えれば、自ら進んで税を納める環境を整えて行くことこそが国のとるべき政策であり、これが本当の税制改革と言うべきものではないかと思うのです。
ところが国の考えは、財源が乏しくなれば国民に過分な負担を強いる、地方行政も赤字法人にはサービスを提供しているから負担させるのは当然と、厳しい状況の中でも、企業の実状を考慮することなく、取る側の立場で安易な考え方に立って外形標準課税を導入しようとしているのです。
日本企業の70%近くが欠損を抱えています。課税導入が実現すれば資本金1〜3億円未満の企業の1社当たりの増税額は約1800万円になるとの試算もでています。固定資産税、事業所得税などに加え、さらなる増税は、いまは対象とならない1億円未満の資金繰りに窮する中小・零細企業にまで、しわ寄せが及ぶことは確実です。
企業への負担増は国の進める産業の活性化政策と相反するもので、国際競争力を弱め、産業の空洞化を加速させてしまいます。
このとき、大臣からは「外形課税は増税路線ではない。地方の税源を公平に安定化させるもの。懸念される部分は分かる。心して承る」との答弁を得ましたが、僕は納得できませんでした。
企業の勢いを削ぐ外形標準課税の導入は、こんなに経済が困っているとき、特に中小・零細企業が生き残りをかけて頑張っているときには、間接的にでも影響が及んできます。外形標準課税の導入には、もっと慎重であるべきだと思うのです。
2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載
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