闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

05 首相のパフォーマンス


 党派を超えた討論会

 忘れもしません、4年前の平成11年の10月30日。横浜プリンスホテルで、僕は「政治生活30周年パーティー」を開催しました。パーティーは大体2年おきに実施していますが、30周年記念でもあるし、何か変わったことができないかな、と考えた末に、これならきっと市民のみなさんが満足していただけるだろうと、とても楽しいことを思いついたのです。それは、民主党だけではなく、自民党も公明党も、そして自由党も、各党から代表クラスが集まっていただけないかなということでした。つまり、「党派を超えた政治討論会」をやりたかったのです。
 NHKで毎週放送する「日曜討論」のような報道番組なら、各党の代表クラスが集まって討論することは、たやすいことですが、まさか一政治家個人のパーティーでこんなことをやるなんて、誰も考えてもみなかったと思います。

  鳩山さんは当時、民主党の代表でしたから、お呼びするのに何の懸念もありません。問題は与党の先生方が参加していただけるかと言うことです。早速、交渉の電話を入れさせていただきました。そうしたら、まさかまさかの快諾を得てしまったのです。
 いまだから言えることですが、内心ビックリするやらホッとするやら。このとき改めて「政治に垣根をつくってはいけない。国家国民のために志を大きく持てば、不可能も可能となる。一番いけないことは、最初からできないとあきらめてしまうことだ」と改めて感じました。
 自由党の野田毅・前自治相(当時)は、急きょ出席できなくなりましたが、 渡部恒三・衆院副議長(当時)からは手厚いメッセージが寄せられました。結局、自民党の小泉・元郵政厚相(当時)、公明党の坂口・元政審会長(当時)、鷲尾連合会長(当時)、そして横浜市民を代表して、タレントのミッキー安川さんが勢ぞろいしての討論会となり、2000人が入るホテルの会場は超満員。横浜が熱く燃えた一日となりました。

 僕は、ミッキー安川さんのラジオのトーク番組によく出させてもらっています。毎週金曜日の昼と深夜の2回放送があります。僕の紹介で菅代表、小沢党首も出演していただきました。県知事の松沢さんや、中田市長も出ています。とにかくこの番組は面白い。まだ聞いたことのない人は、是非聞いてみてください。政治や社会の動きがとてもよくわかる。特に政治離れを起こしていると言われる若い人たちには是非一度、聞いて欲しいと思います。そして日本の国が、いまどうなっているのか、どんな問題を抱えているのか、どうすれば日本がよくなるのか、日本の現在そして将来を、日本を背負う若者たち全員で考えて欲しいのです。 
 昼夜、2回の放送があります。深夜の放送は午前零時から始まるので、厳密には土曜日となるわけですが、先日、深夜の番組に鳩山前代表と一緒に出演したとき、ミッキーさんが「党派を超えた討論会」のことを思いだして話題にしてくれました。四年たったいまでも話題になる。そのくらいに印象深いものだったのです。

 21世紀の日本の政治は、党利党略を超えた活発な論争と、信念を持った政治決断が求められるようになってくると思っています。その意味でも、四年前の討論会が「開かれた、分かりやすい政治」をめざすために政治家パーティーに一石を投じ、時代の先駆けとなったのかな、と感じたりもしています。とにかく、政治家は進んで国民の前で、党派を超えた政策論争を展開していくべきです。
 この僕のパーティーの後、小泉さんは自民党神奈川県連からキツイお叱りと役職停止処分を受けたそうです。小泉さんは二度の総裁選に果敢にチャレンジし、屈辱を味わいながらも、それがいまや自民党の総裁となり、一国の総理大臣にまで昇り詰めました。政治家としての不屈の精神は率直にすごいことだと思います。しかしながら、僕はいまの小泉さんと当時の小泉さんとを比べると、そのときの小泉さんの方がむしろ気骨に満ち溢れていたような気がしてなりません。

 

 首相の気概を問う

 予算委員会の質問の冒頭で、僕は早速、小泉首相に経済再生をどのように進めようとしているのかを伺いました。そのときの質問のなかで、僕は四年前のことを持ちだしたのです。
「総理は日本国民1億2000万人の生命財産、国の繁栄を担っている。
責任が重いと同時に国民から厚い信頼を受けなければ務まるものではない。
また、そのような人が総理にふさわしい。
そういう意味では総理になる前の《小泉純ちゃん》は同じ神奈川ということもあり、魅力があり、私も期待をしていた。
 しかし、あなたは総理になってからは『改革なくして成長なし』と言いながら、昨今では官僚の言いなりになっているようにみうけられる。
あなたの言葉から、以前のような《純ちゃん》らしい厳しさが感じられない。
もう一度、昔の《純ちゃん》に戻って欲しい。
 総理になる直前に地元横浜で『党派を超えて日本を語る』と題した私の主催したパネルディスカッションを快く引き受けていただいた。そして政策論議を戦わせた。
 その後、総理は、『他党の集まりに出てはいけない』と自民党から厳重注意を受けたと聞いているが、あの時の元気はどこへいったのか。
あの時の気概に戻れば、日本の景気や国民の痛みは分かるはずではないかと思っている。
 あなたが総理になったことについては、私たちも期待し、改革に対する考えは共感するものがあった。
 しかし『構造改革なくして経済成長なし』と言い続けているにもかかわらず、日本経済はますます厳しい状態になっている。
 この厳しさをどのように受け止め、経済再生をどのように行なおうとしているのか。4年前の《純ちゃん》を失ってしまったのではないかと心配している」
と質問したことがあります。

 それに対し小泉総理は「総理になった前も後も改革の決意は変わっていない。総理になると一言一句、右から左から、上から下から、斜めから後ろから、あらゆる片言隻句(へんげんせっく)を取られて批判されるものだ。
 この点において、発言に慎重になってきたかな。これが変わったのかな、と思う点であるかも知れない。
 しかし、批判され、いじめられて抵抗力がついてきた。
 できるだけ穏やかに、慎重に発言して国民の理解と協力が得られるように努力していこうと思う。
 総理になる前から比べると、私もずいぶん人間的にまろやかに練れてきたかなという感じを自分でも持っている」と、煙に巻くような答弁に、予算委員会室では議員の笑いを誘いました。

 僕は「ご自分でそう思うのは結構だが、国民の生命財産を担ってこの国の頂点にいる以上、そんな悠長なことを言っている暇はないと思う」と申し上げて質問を続けたのでした。

 

 偽りのイメージ

 こんな首相との予算委員会でのやりとりは、なかなか国民には知ってもらえません。委員会の一部や党首討論は、NHKテレビで放映されています。また、ニュースなどでも一部とりあげられていますが、国会では本会議を含めて、多くの委員会が土曜日曜を除いて、毎日朝の9時から夕方5時過ぎまで開かれているのです。そして、さまざまな法案が審議されています。
 本会議や委員会で、国会議員が居眠りをしているのがテレビで大きく映しだされます。確かに国会の審議は長いし眠くなる。しかし、たまたま下を向いて目をつぶっていたり、ほんのちょっとだけウトウトしてしまった時をカメラで映されると、誰もが「議員は会議中いつも眠っている」と思ってしまう。もちろん、撮られている本人はぜんぜん気がついていません。「居眠りなんかして、何やってるんだ」と、国民から苦情が寄せられます。テレビ局も、議員がいつも居眠りをしているごときイメージを画面でつくりだす。演出効果を高める材料にして、面白おかしく意地悪に流してくる。そうすると、映された議員のイメージはものすごく悪くなってしまう。 本当に映像の力は怖いと思います。

 12年前の湾岸戦争のとき、ペルシャ湾で重油にまみれた鳥が何度も繰り返し放映されました。見ている世界中の人たちは、全ての海があのように汚染されてしまったのかと、本当に心配しました。報道は過度にその部分を強調することで、むしろ誤った知識を植え付けてしまうことがあります。情報も故意にねじ曲げて情報操作をすることもできてしまう。
 最近では、国民も冷静に情報を見分けられるようになりました。とてもよいことだと思います。一つのできごとにも、情報を多方面から多元的に取り入れて、判断する賢さを身につけていく。そうすると、ものの見方が大きく変わってきます。

 僕は、時間が許されれば国会見学に来ていただいたみなさんの案内役を買って出ています。よく知られた赤じゅうたんを敷きつめた廊下を歩いてもらいます。ちなみに国会議事堂内の廊下の長さは、階段を含めて約4600メートルもあります。
 開会式におみえになる天皇陛下の御休所も案内します。この部屋は安土・桃山時代のものにならって、金糸の刺繍に豪華な大理石、その他、多量の金などが使用され、特に入口の石は一つの大きな大理石で、徳島県産の「ホトトギス」というものだとか、外から見ると議事堂のシンボルともいうべき中央部分の吹き抜けになった内部の中央広間は、法隆寺の五重の塔がすっぽり入ってしまうとか、そこにある三人の銅像は憲政の功労者であった「伊藤博文」「大隈重信」「板垣退助」であるとか、そんなことを説明して回ります。

 本会議が開かれていないときは、議場を傍聴席から見学してもらいます。あるとき、議場を見学している人から「いつもこんなに暗いのですか」と、議場の明るさを聞かれたことがあります。その人は、本会議が開かれていなかったので、照明を落としていると思ったのでしょう。その通りで、確かに本会議中はもう少し照明が明るくなります。ところが、僕は「こんなもんですよ」と言ってしまった。騙すつもりなど、ぜんぜんありませんでした。その人も、一瞬けげんな顔つきを見せましたが、すぐにそうでないことが分かったようでした。いつも議場にいる議員の言葉は、一瞬でも相手を信じ込ませてしまう。議員の、まして議場で何気なく発した言葉は、嘘でも真実にしてしまう効果を持つ、とても恐ろしいと思います。

 照明が明るくなっても、傍聴席からは大分距離が離れていて、中央の演台で意見を述べる首相の表情はハッキリとは分からないと思います。思い起こしてください。野球やサッカーの試合を観戦する。観劇でもそうです。遠くの選手や役者の表情は、よく分からない。それと同じです。
 ところが、それがテレビを通してみると、とても明るくきれいに映ります。いつもテレビで映しだされる議場を見ている人は、国会見学で見る議場のイメージと違うと感じるかも知れません。とにかく、いまのカメラはどんなところでも鮮明に、本当に明るくよく映る。
 僕が「議員が議場で眠くなるのは、議事堂の完成が昭和11年11月と古く、議場の空調が不十分で酸欠状態になるから眠くなるんです」と、そんな説明をしたら、見学にきた人は「なるほど」と、納得してしまった。言葉とは、本当に恐ろしい。

 国会見学にきた人たちが見た、遥か遠く離れた本会議場の演台を、小泉首相は思い切り叩きながら「改革なくして成長なし、自民党をぶっ潰す」と威勢のいい所信表明を行ないました。明るく鮮明に映しだされる首相の顔。国民のほとんどは、テレビ画面を通して小泉首相の元気のよさを、何度も何度も繰り返し嫌と言うほど見せつけられたと思います。
 見かけのイメージで「ライオン宰相」と名付けられ、ご子息の孝太郎君のさわやかさと併せて、型破りな感じのもの珍しさも手伝って、国民からは高感度抜群のお墨付きももらいました。写真集も出して、真っ白いワイシャツを腕まくりした大きな垂れ幕をつくり、人気に陰りの出てきた自民党本部を覆い隠す。「純ちゃんをいじめたら許さないから」と言う声が聞こえてきそうな、本当に憎いまでの演出を心がけ、見事なイメージアップを図ったと思っています。とにかくうまい。
 ブッシュ米国大統領とのキャッチボール。そして、今年の夏の甲子園での絶叫型の挨拶とストライクボールを投げた始球式。早速、新聞には「総裁選に向けての選挙運動」と書かれていましたが、機を見て敏なるは、本当に見事だと思います。僕は、そのイメージづくりが偽りのメッセージに終わらないように政治に生かしていって欲しいと思っているのですが、なかなか期待通りにはなっていないのが首相の実像のようです。
「ペンは剣よりも強し」と言うことわざがありますが、いまの小泉首相にとっては「映像のイメージは剣よりも、そしてペンよりも、何にも増して強し」とでも言うところでしょうか。

2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載

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