闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

04 経営者の会


 第三水曜のシンクタンク

 僕は月一回、第三水曜日に地元の中小企業経営者と朝食会を兼ねての「朝の勉強会」を行っています。ここでは、中小企業が抱えるさまざまな問題点が提起されます。流通、建築、介護、人材派遣、そして政局までと、何でも気軽に意見を出し合ってもらっています。そのなかでも比較的多いのは、やはり景気対策、金融問題です。
 この場で出された問題点は、僕の所属している経済産業委員会の質問の中に取り入れさせてもらっています。言わば、市場に密着した僕の市場ウォッチャースタッフであり、シンクタンクとでも言うようなものです。ここから中小・零細企業への支援策拡充の施策が生まれています。
 ここで出された意見は、公的信用保証枠の確保、売掛債権融資制度、無担保・無保証制度、資金の借り換え制度、融資返済の一時猶予、支払代金遅延防止、産業再生機構法など、中小企業の資金対策として重要な法案となって生かされています。このシンクタンクは僕にとって、なくてはならない存在になっているのです。

 

 質問主意書を提出

「朝の勉強会」の意見を全部取り上げて、委員会の質問に生かせるわけではありません。所属外の委員会で取り上げる質問事項もあったり、時間的に無理なものもあります。そのときは、質問主意書として政府に質問書を提出し、答弁をもらうことができます。
 僕は昨年、「悪質商工ローン」、「エネルギー政策と地球温暖化」、「原子力発電所新増設」、「BIS規制検査」、「首都高ETC導入」、「首都高値上げ」などの質問主意書を提出しました。すべて重要なものばかりだと思っています。

 

 悪質商工ローン

 大阪で男女三人が電車にはねられて死亡するという、痛ましい心中事件がありました。夫61歳、妻69歳、そして妻の長兄81歳の三人でした。はじめは長兄の体の障害を苦の無理心中と思い、新聞も大きく報じませんでした。しかし、警察の調査が進むにつれ、ヤミ金融による執拗な取り立てが原因だったことが分かったのです。生活の穴埋めに3万円を借り、1ヶ月半で10万円以上返したが法外な金利で元本は減らず、となり近所にも「あんたも保証人だ」と脅しの電話が突然かかってきたと言います。警察に相談しても、ヤミ金業者は「完済されています。勘違いでしょう」と答えて、とぼけるだけ。警察署員の警告にもかかわらず、業者の取り立てはその後もむしろエスカレートするばかりでした。「殺すぞ」と何度も怒鳴る声に耐えられず、やむなく三人は自殺の道を選ばざるを得なかったのです。

『遥かなる山の呼び声』という高倉健と倍賞千恵子主演の山田洋次監督作品の映画があります。見た人もいると思いますが、この中で、高倉健が子役の吉岡秀隆を相手に話して聞かせる、金貸しにまつわる印象的なシーンがあります。
「タケ(吉岡秀隆)、父さん死んで寂しいか。
 おじさん(高倉健)の父さんも、おじさんがタケとおなしぐらいに死んだんだぞ。
 仕事に行き詰って、借金が返せなくなって、家の近くの川の橋の下で首くくって
 死んだんだ。
 おじさんの母さん、その頃家にいなくてな。
 おじさんと兄さんと父さんと三人で暮らしていたんだけれど、
 その父さんが死んだっていうから、兄さんとリヤカーもって迎えに行ったんだ。
 そして、橋の下にぶら下がっている父さんを降ろしてリヤカーに乗せて、
 コモ被してな。
 兄さんと二人で引っ張って帰るんだけど、町の人がいっぱい見にきたな。
 おじさん悲しくて、泣きだしそうになるんだけれど、兄さんが小さな声で
『泣くな、みっともないから泣くな』、そう言うんだ。
 おじさん、必死になって我慢して、歯くいしばって、涙こらえて歩いたんだ。」

そして倍賞千恵子を相手に、
「勘弁してください。実は俺、ひと殺して、警察に追われているんです。
 女房がカネ貸しに借金して、その利子が積もりに積もって
 どうにもならなくなって、首くくって死んだんです。
 ちょうどそのとき俺、旅先だったんですが、急いで帰ってきた通夜の席に、
 そのカネ貸しが押し掛けてきて、『事故死だったら保険がおりたのに』って、
 大声でわめきやがったんで、殺しました。もう二年前のことです。」
 昭和55年作品のこの映画。最後は汽車の中での感動的なシーンで幕を閉じるのですが、借金と自殺が映画のテーマになる程ですから、この頃から高利貸し、借金地獄、自殺は社会問題化していたことがわかります。昨年1年間で、3万2000人が自殺しています。3万人を超えるのは5年連続で、とても悲しい記録です。このうち、借金や事業不振、失業などのいわゆる経済・生活苦で自ら命を絶った人は、昨年は7900人にもなってしまいました。これは統計を取り始めた1978年以来、最多であると警察庁が発表しています。

 僕の知り合いでも、何人かの経営者が自らの命を絶っています。そんなにせっぱ詰まっていたのかと驚くほどで、力になってあげられなかったことが悔やまれてなりません。
 自殺の増加は資金難、仕事の悩みに加えて、人間関係が希薄になっている、いまの孤立化した社会のあり方を映しだしていることもあると、僕は思っています。
 景気の回復が遅れ、デフレ経済が続く限り、これから先も経済・生活苦による自殺者が増えることはあっても、減ることはないでしょう。
 自殺者は30から50歳代が半分以上を占め、中でも50代が過去最多となっています。家庭の大黒柱、働き盛りを失うことは、残された家族にとっても辛いことです。そして国家にとっても大損失です。
 自殺に追い込むような原因をつくってはいけない、もし、つくってしまったなら、必ず自殺を思いとどまらせる解決策、ブレーキ機能が十分に発揮できる仕組みを用意をしておかなければならないと思います。

 僕たちは、自殺に対する認識をどれくらい持っているでしょう。一人の自殺者の背景には10倍の自殺未遂者がいると、かつてフランスのデータが示したことがあります。このデータが正しければ、経済・生活苦の自殺者が7900人ですから、その陰に、実に7万9000人もの自殺者予備軍がいることになります。さらに深刻なことは、一人の自殺者がでると会社、取引先、家族、親戚、友人など、150人から200人の人たちが何らかの影響を受けるといわれているのです。自殺者の統計でみても、特に日本はアメリカ、ドイツなどの先進諸外国と比べて、10万人当たりの自殺者数が2倍、英国と比べては、何と3倍以上にもなっていて、日本が異状に多いことがわかります。

 多くの自殺者までだしてしまう借金返済のトラブルは、ヤミ金業者だけでなく、貸金業と言われる商工ローンでも同じようなことが起きています。悪質商工ローンと言われるものです。このために貸金業者すべてを白い目で見るようになってしまいました。しかし本来、商工ローンなどの貸金業は銀行や国庫に融資を受けられない人のために、金利は多少高くても、それなりに社会的な役割を担って存在しているのです。
 僕は「ヤミ金融規制法」が早期に必要と思い、委員会でも質問を重ねてきました。その甲斐あって、貸金業規制法と出資法改正案が成立し施行されることになりました。

 ヤミ金融に入った金は半分以上が暴力団の資金源となっていることが、ヤミ金融業者の逮捕でわかってきました。法外な高利と暴力的な取り立て、弱みにつけ込む悪業、遅きに失した感は否めませんが、被害を拡大させないよう徹底した貸金業者の情報開示、借り手側の認識も深めていかなければなりません。

 今回の法案は、被害防止に本当に役立つのかとの疑問の声もあります。それは、借りる側はどんなに高利でも金が必要な人たちで、借りた後ろめたさから無理をしてでも返そうとする。金利が違法かどうかなんて関係ない、と言うのです。
 ハイエナのような悪質業者は、いくら罰則を強化して、新しい法律で押さえ込もうとしても、また、巧妙な手口を考えだして、ひそかにスキを狙って悪行を仕掛けてきます。
 悪質なヤミ金融の仕業と思われる事件が起きました。可愛いチワワのコマーシャルでよく知られる、大手消費者金融のポスターを縮小コピーしたダイレクトメールが、個人融資を申し込んだ男性に送られてきたと言うのです。その男性は免許証のコピーをファクスし、お姉さんの連絡先を教えたところ、融資を受けていないのに「弟に貸した金を返せ」と、お姉さん宅に脅迫してきたのです。そして、数日後には当の男性にも電話があり、「免許証のコピーでヤミ金から金を借りるぞ」と脅しました。悪知恵が働くヤツは、善良で弱い獲物をみつけると、どこまでもしつこく追いかけてきます。同じことを繰り返さないように、そして悪の根絶を図るためにもみんなが注意して、甘いことばに騙されず、悪質業者には毅然とした態度で臨んでいくことが大切だと、僕は思っています。


 政府へ提出した『悪質商工ローン業者の取締りと中小企業金融機関の抜本的改革に関する質問主意書』が「日本金融新聞」に取り上げられました。

『日本金融新聞』14年・8月1日・10日合併号より

 中小企業対策が火をつける? 金利見直し含む抜本策要求
 民主党 田中衆議院議員「私案だが党も了解」

 民主党の田中慶秋衆議院議員は七月二日、「悪質商工ローン業者の取締りと中小企業金融機関の抜本改革に関する質問主意書」を政府に提出した。
 質問書では、過去五年間における商工ローン被害の推移、過去の取締り対策とその成果を示す資料の提示を要求するとともに、中小企業専門ノンバンクを早急に育成する必要性を示している。民主党では金利規制も合めた中小企業金融関連法案を次期国会に提出する。金利問題は、不況の影響で経営に苦しむ中小企業支援策の観点から議諭が始まりそうな雲行きだ。
 質問書は冒頭、商工ローンによる悪質な貸付や取り立てで、倒産、自己破産、自殺に追い込まれる中小企業の経営者が急増しており、その原因に大手銀行の生き残りを優先した結果、信金、信組など中小企業金融を担う地域金融機関にしわ寄せした金融行政が背景にある、と指摘。「商工ローン業者の取締り強化と、まじめに事業に取り組む中小事業者への健全な金融手段の整理が緊急の課題である」と結論付けた。
 質問では、まず商工ローン業者による被害に関し、過去五年間の
 一、苦情件数
 二、全国の自殺者数、うち経済生活問題を原因とするものと自営業者の自殺者数
 三、登録件数と貸付残高、営業利益
 四、利息制限法違反件数、出資法違反件数、のデータの提示を要求
さらには商工ローン問題後の政府の取締り対策とその具体的な効果についても回答を求めている。
 また、ペイオフ解禁前に実施された政府による金融安定化策が、中小企業金融の主な担い手である地銀・第二地銀、信金・信組など地域金融機関の信用収縮を招いていると指摘。政府の見解を求めている。
 質問の最後では、中小企業信用保証制度の抜本的改革とともに、金融庁の金融検査マニュアルの対象外となる中小企業専門ノンバンクの早期育成の必要性に言及している。

 政府は九日に正式に回答した。それによると、事業者向け貸金業者による苦情件数は、平成十二年の八百十八件から平成十三年は四百八十八件と約半分に減少している。商工ローン問題を受けて最初に報告を求めた平成十年七月から十一年七月までの十三カ月間は五百二十二件、同年八月から十二月までの五カ月間は六百二十件と急増していた。
 法令違反業者については、出資法違反を理由に貸金業者に下した行政処分の件数で示した。平成十年は十六件、十一年は二十件、十二年は三十件、十三年は十八件と少数に止まっている。事業者向け金融業者だけの数字は把握していないとして回答していない。
 取締り対策と効果については、平成十一年に旧金融監督庁による各財務局、全金連を通じて実施した指導、財務局と警察との連携強化、財務局で事業者金融業者に対し、規制法三十六条違反として五回にわたり発出した業務停止命令などを具体的な取り組みとして例示。これら施策を行った結果、事業者向け貸金業者に対する苦情件数は減少しており、「一定の効果があった」との評価を下した。
 一方、中小企業専門ノンバンクの早期育成に対しては、「その役割を健全かつ適切に果たせるよう、引き続き適切な監督に努める」とのあいまいな回答を行うにとどまった。

2003年9月出版本「日本の進むべき道」より転載

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